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10: Rumba #4

rmb33.JPG そうこうしているうちに、Cuba国立民族舞踊団でのサルサ・パーティーはいつの間にか終焉を迎えようとしていた。
 ここではたと気付く。会場には先日リハーサルにお邪魔させていただいたバンドの面々や 欧米人の観光客や先程の日本人女性達もいたのに 、今は完全にCuba人だけになっていた。今回の旅の同行者ぶんえい氏も途中で疲れたと言って宿に帰ってしまっていたので、 今この会場にいる外国人は私一人になってしまっていた。これは完全に帰るタイミングを逸してしまっていた。

 「この後良い店があるから飲みに行こう」
 「別のパーティーが始まるから一緒に行こう」
 「喉が渇いたんだ」
 「僕の給料は月に10ドルしかないのに、ここではビール一杯が1ドルもする」
 「女を紹介してやろう」

 多くのCubanoが集まってきた。不覚にも私は完全に標的となってしまっていたのであった。この状況はちょっとよろしくない。さてどう切り抜けるかと思っていたところ、 一人の男が私を会場から連れだしてくれた。

 彼は先日のバンドのリハーサルのときにいたJorge(ホルヘ)という男。そのバンドのプロデューサーだという。彼もこの後サルサを観に行こうと誘ってきてはいるのだが、 私とそのバンドのリーダーのRicardは信頼できる筋からの紹介で知り合っているので他の連中よりは幾分信頼はできる相手ではあろう。とりあえず今その会場から抜け出す事がその時の最重要課題だった。ここはJorgeを信じてみることにした。

 私に声をかけてくる数人のCuba人達をJorgeに振りほどいてもらい、なんとか会場の外に出ることが出来た。大通りまで出てJorgeが一台の車を止めた。白タクか。しかも既に運転手を含めて4人位乗っている。詰めれば二人座れるから乗るぞと言う。これは乗り合いタクシーか。いやいやいやいや、これは流石に大丈夫だろうか?このJorgeも信頼しきっていないのに、さらに全然知らないCuba人に囲まれて知らない車に乗るなんて、こんなの初めてですから。まだこの国に充分に慣れていない私にはハードルが高すぎた。なのでしばし躊躇していると運転手がしびれを切らして走り去っていった。「何故乗らなかった?安いのに!」。

 次に捕まえたのは乗り合いではないタクシー。もちろん白タク。基本的にこの国の自動車はとても古いモノを修理を重ねながらだましだまし使っているモノばかりなので、当然の様にシートのクッション性はない。道路の舗装も充分に整っているわけでもないので、かなりの振動が尾骶骨を直撃する。料金はJorgeが払ってくれたのでいくらかわからなかったが、先程の乗り合いタクシーよりは高いのだろう。Jorgeにちょっと悪い気がした。

 宿に戻りぶんえいと合流。ぶんえいが嫌がれば何とかしてJorgeには帰ってもらおうとは思っていたのだが、Jorgeと一緒に現れた私に驚きはしたが、「まあ、それはそれで、何があってもおかしくないし、 たてた予定は崩れる国だ」と言い、そのままJorgeと一緒にサルサを観にいくことにした。Cubanoと一緒に遊びにいくというのもそんなに得られる経験でもなかろうと。

 たてた予定は崩れるのが当たり前。そういう国なのだ。


rmb39.JPG Jorgeは他のそこらへんにいるCubanoとは違い、おごってもらうことを執拗に要求してこない。PALADARという個人経営のレストランに食事に連れて行ってもらっても、「お腹がいっぱいだ」と 言って飲み物だけですまそうとする。社会主義だからかCubanoの基本的な考え方に「お金は持っている人が払う」というのがあるので、 大抵は何の負い目も感じずに外国人観光客が食事の会計をもたせるCubanoがごろごろいるにも関わらずだ。PALADARの食事は食べきれない程の量が出るのでJorgeにも食べてくれと言ったが、3回断った後に我々が本当に 食べきれないことを確認してからモリモリと食べ始めた。なんだかんだでお腹は減っていたようだった。

 Havanaの街を歩きながらJorgeはテンション高く叫ぶ。

 「Saturday Night! SALSA!!」

 Jorgeは笑う。

 Jorgeは踊る。

 夜になり街灯もない真っ暗なHavana旧市街を歩きながら、 通りかかった外国人に片っ端から声をかけてSalsaのパーティー行こうと誘っていく。とりあえず皆でSalsaで楽しもう!今日は土曜の夜だ!Jorgeのテンションはあがっていく。

 Jorgeは歌う。

 「♪チカ シ トゥ テ ヴァ、ジェバメ コン ティゴ パラ ハポン♪」

 明るい曲調の中にどこか寂しげな雰囲気の漂うRumbaの曲。その歌詞の最後にハポン(Japon=日本)とあるので歌詞の意味を聞いてみると、 「愛する日本人女性が私をおいて日本に帰ってしまった」という意味の歌だった。愛する日本人女性を追いかけて自分も一緒に日本に行くお金はない。それどころかそう簡単に国外に行くことも難しい。自分達よりも明らかにお金と自由を持っている日本人。確かに愛し合ったはずではあるが、私をおいて帰っていってしまったのだ。

 Jorgeにこの歌詞のような経験があったかどうかは知らない。だがしかし、この明るい曲調の歌詞の裏にはCuba国民の闇の部分が見え隠れするのだった。それでもJorgeは明るく笑い踊る。

 そうなのだ。Cubaの人たちは基本的に明るいのだ。陽気に音楽とダンスとおしゃべりと共に生活しているのだ。もしかすると闇の部分があるからこそ、明るく生きているのかもしれない。

 「♪チカ シ トゥ テ ヴァ、ジェバメ コン ティゴ パラ ハポン♪」

 Jorgeは歌う。街灯もない闇夜のHavanaの街を歩きながら。


rmb38.JPG

2006年6月14日初掲載

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